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2012年09月18日

10分でわかる「平家物語」巻七「福原落その2」(福原を去り、西国へと落ちて行く平家)


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福原の旧里に一夜をこそあかされけれ。折節秋のはじめの月は、しもの弓張りなり。深更空夜閑にして、旅ねの床の草枕、露も涙もあらそひて、ただ物のみぞ悲しき。いつ帰るべしともおぼえねば、故入道相国の作りおき給ひし所々を見給ふに、春は花みの岡の御所、秋は月見の浜の御所、泉殿・松陰殿・馬場殿、二階の桟敷殿、雪見の御所、萱の御所、人々の館共、五条大納言国綱卿の承はッて造進せられし里内裏、鴦の瓦、玉の石だたみ、いづれもいづれも三とせが程に荒れはてて、旧苔道をふさぎ、秋の草門をとづ。瓦に松おひ、墻に蔦しげれり。台傾て苔むせり。松風ばかりや通ふらん。簾たえて閨あらはなり。月影のみぞさし入りける。

あけぬれば、福原の内裏に火をかけて、主上をはじめ奉りて、人々みな御舟にめす。都を立し程こそなけれども、是も名残は惜しかりけり。海人のたく藻の夕煙、尾上の鹿の暁の声、渚々に寄する浪の音、袖に宿かる月の影、千草にすだく蟋蟀のきりぎりす、すべて目に見え耳にふるる事、一つとして哀れをもよほし、心をいたましめずといふ事なし。昨日は東関の麓にくつばみをならべて十万余騎、今日は西海の浪に纜をといて七千余人、雲海沈々として、青天既にくれなんとす。孤島に夕霧隔て、月海上にうかべり。極浦の浪をわけ、塩にひかれて行舟は、半天の雲にさかのぼる。日かずふれば、都は既に山川程を隔て、雲居のよそにぞなりにける。はるばるきぬと思ふにも、ただつきせぬ物は涙なり。浪の上に白き鳥のむれゐるを見給ひては、かれならん、在原のなにがしの、すみ田川にてこととひけん、名もむつまじき都鳥にやと哀れなり。寿永二年七月廿五日に平家都を落ちはてぬ。

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〈現代語訳〉


平家の人々は福原の旧都で一晩過ごされた。ちょうど秋のはじめの月はしもの弓張りである。夜は更けてまだ月の上らない夜は静かで、旅先の寝床の草枕は、夜露と涙が争うようにこぼれて、ただ物悲しいばかりである。いつこちらに帰れるともわからないので、亡くなった清盛入道の作りおきなさったところどころを見なさると、春には花見をした岡の御所、秋に月見をした浜の御所、泉殿(いずみどの)・松陰殿(まつかげどの)・馬場殿(ばばどの)、二階の桟敷殿(さじきどの)、雪見の御所、萱(かや)の御所、平家一門の人々の邸宅など、五条大納言国綱卿(くにつなのきょう)が承って作られた仮の皇居、おしどりの形の瓦や、美しい石を敷いた石畳も、どれもどれも三年の間に荒れ果てて、時を経た苔が道をふさいで、秋の草が門を閉じている。瓦に松が覆い、垣にはツタがしげっている。高楼は傾いて、苔がむしている。松風だけが通っているのだろうか、簾が切れて寝室があらわになっている。月の光ばかりが差し込んでいた。

夜が明けたので、福原の内裏に火を放って、帝をはじめ申し上げて、平家の人々はみな舟にお乗りになる。都をたった時ほどではないが、これも名残惜しかった。あまが塩を取るために炊く海藻の煙が夕空にのぼり、山の高いところから聞こえる明け方の鹿の声、渚に打ち寄せる波の音や、袖に落ちる涙に映る月の光、草むらに集まって鳴くコオロギの声、すべて目に映り、耳に聞こえることは、一つとして、哀れさを催さないものはなく、心を傷ませないものもない。昨日は逢坂の関のふもとに馬を並べること十万騎あまり、今日は西の海の波に船のともづなをとくこと七千人あまり、雲が低くたれ込めた海は鎮まりかえって、空ははやくも暮れようとする。離れた島を夕霧が隔てて、月が海面に映っている。遠い海岸の波を分けて、潮の流れに導かれていく船は、中空の雲の中へとさかのぼるようだ。何日か経って、都はすでに山や川を隔てて、遠く雲の彼方になった。「はるばる来た旅」であると思うにつけても、尽きないものは涙である。波の上に白い鳥が群れているのを見なさって「あれだろう。在原業平が伊勢物語で隅田川で消息を尋ねた、その名も親しみを感じさせる都鳥であろうか。」というのもしみじみ物悲しい。寿永二年七月二十五日に平家は都から落ち果てた。

posted by manabiyah at 12:48| 平家物語過去分 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする