「平家物語」各場面の原文朗読・現代語訳・解説の音声ファイルを公開しています。
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2013年05月22日

10分でわかる「平家物語」巻九「小宰相身投」(愛する夫、平通盛を失った小宰相)


↑「平家物語」原文の朗読・現代語訳・解説の音声ファイルです。
再生ボタンをクリックして聴くことができます。(各回10分程度)
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繰り返し聴くこともできます。(ページ下に全訳あり。)


一の谷より八島へおしわたる夜半ばかりの事なれば、舟の中しづまつて、人是を知らざりけり。その中に楫取の一人寝ざりけるがみつけ奉って、「あれはいかに、あの御舟より、よにうつくしうまします女房の、ただいま海へ入らせたまひぬるぞや」とよばはりければ、めのとの女房うちおどろき、そばをさぐれどもおはせざりければ、「あれよあれ」とぞあきれける。人あまたおりて、とりあげ奉らんとしけれども、さらぬだに春の夜はならひにかすむ物なるに、四方の村雲うかれきて、かづけどもかづけども、月おぼろにて見えざりけり。ややあッてとりあげたてまつたりけれども、はや此世になき人となり給ひぬ。


練貫の二衣に白き袴を着たまへり。髪も袴もしほたれて、とりあげたれども、かひぞなき。めのとの女房手に手をとりくみ、顔に顔をおしあてて、「などや是程におぼしめしたつならば、千尋の底までも引きは具せさせ給はぬぞ。さるにても今一度、もの一言葉おほせられて聞かせさせたまへ」と、もだえこがれけれども、一言の返事にもおよばず、わづかに通ひつる息もはやたえはてぬ。さる程に、春の夜の月も雲井にかたぶき、かすめる空も明けゆけば、名残はつきせず思へども、さてしもあるべき事ならねば、うきもやあがりたまふと故三位殿の着背長の一両残りたりけるに引きまとひ奉り、つひに海にぞ沈めける。


平家物語連続講義のこれまでの内容を物語の展開順にまとめました。
「平家物語連続講義放送リスト」


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〈現代語訳〉


一の谷から屋島へと渡る夜中過ぎのことなので、船の中は寝静まっていて人はこれに気づかなかった。その中で船の舵取りの一人で寝ていなかった者が見つけもうしあげて、「あれはどうしたことだ。あの船から、まことに美しくいらっしゃる女房が、たった今海へお入りになったぞ。」と叫んだので、小宰相に仕えるめのとの女房は目を覚まして、そばを探したが小宰相がいらっしゃらないので、「あれ、あれ」と呆然としていた。人がたくさん海へとおりて、ひきあげ申し上げようとしたが、ただでさえ春の夜は普通、霞むものであるのに加えて、周囲の雲の群れが漂ってきて、もぐってももぐっても、月の光はぼんやりとしてよく見えなかった。しばらくたってようやく引き上げもうしあげたが、もはやこの世の人ではなくなられていた。


絹の二枚重ねの衣に、白い袴を着なさっていた。髪も袴もびっしょりと濡れて、引き上げたがその甲斐もなかった。めのとの女房は、その手にとりつき、顔に顔をおしあてて言った。「どうして、これほどのことを思い立ったのならば、千尋の海の底まで私をお連れにならなかったのか。それにしてももう一度、何か一言おっしゃって声を聞かせてください。」と、身もだえして、泣きこがれたが、小宰相は一言の返事にも及ばないで、わづかに通っていた息もすっかり絶え果ててしまった。そうしているうちに春の夜の月も西の空へと傾いていき、かすんでいた空も夜が明けていくので、名残はつきないと思うが、そのままにしておくこともできないので、亡骸が浮き上がってはいけないと、亡くなった通盛殿の鎧で一両残っていたものに、結びつけ申し上げて、とうとう海へと沈めて葬った。


posted by manabiyah at 16:10| 平家物語過去分 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする