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2013年06月11日

10分でわかる「平家物語」巻十「内裏女房」(重衡とある女房との切ない和歌のやりとり)


↑「平家物語」原文の朗読・現代語訳・解説の音声ファイルです。
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繰り返し聴くこともできます。(ページ下に全訳あり。)


「いくらもある人のなかに、三位中将しも生取りにせられて、大路をわたさるる事よ。人はみな奈良を焼きたる罪のむくひといひあへり。中将もさぞいひし。『わが心におこッては焼かねども、悪党多かりしかば、手々に火をはなッて、多くの堂塔を焼きはらふ。末のつゆ、本のしづくとなるなれば、われ一人が罪にこそならんずらめ』といひしが、げにさとおぼゆる」とかきくどき、さめざめとぞ泣かれける。


右馬允、是にも思はれける物をと、いとをしう覚えて、「もの申さう」といへば、「いづくより」と問ひ給ふ。「三位中将殿より御文の候ふ」と申せば、年ごろははぢて見え給はぬ女房の、せめての思ひのあまりにや、「いづらやいづら」とて走り出て、手づから文をとッて見給へば、西国よりとられてありし有様、けふあすともしらぬ身のゆくへなンど、こまごまと書きつづけ、おくには一首の歌ぞありける。



 涙河うき名をながす身なりともいま一たびのあふせともがな



女房これを見給ひて、とかうの事ものたまはず、文をふところに引き入れて、ただ泣くより外の事ぞなき。やや久しうあッて、さてもあるべきならねば、御かへり事あり。心ぐるしういぶせくて、二年を送りつる心の中をかき給ひて、


 君ゆゑにわれもうき名をながすともそこのみくづとともになりなむ

平家物語連続講義のこれまでの内容を物語の展開順にまとめました。
「平家物語連続講義放送リスト」
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〈現代語訳〉


「いくらでもいる人の中で、重衡さまだけが、生け捕りにされて、都の大路をひきまわされたことだよ。都の人はみな、重衡が奈良を焼いた罪のむくいだといいあっている。中将もこのようにいっていた。『自分の心から思って焼いたのではないが、配下に無類のやからが多かったのでそれぞれが勝手に火をつけて放って、多くのお堂や塔を焼き払った。葉の末のつゆが集まって、木の幹を流れるしずくになるようなものなので、私重衡ひとりの罪になるのだろう』といったが、本当に私もそう思います。」と恨むような口調で言って、さめざめとお泣きになった。


右馬允知時(うまのじょう・ともとき)は「この女房の方でも重衡様のことを思っていたのだなあ」と気の毒に思って「ごめんください」というと、「どちらからですか」と女房は問いなさった。「三位中将重衡さまからのお手紙です。」と申し上げると、長年、人に会うことを恥ずかしがって姿を現わさなかった女房が、切に思いあまってのことか「どこかどこか」と走り出てきて、自ら手紙を受け取って見なさると、西国でとらえられてからの様子や、今日明日も知れない自分の身の行く末などを、こまごまと書き連ねて、奥には一首の歌があった。

「とらえられ涙の川で 悪名を世に流した わが身であっても もう一度あなたと 会う機会があればなあ」

女房はこれをみなさって、あれこれおっしゃることもなく、この手紙をふところにいれて、ただ泣く以外のことはない。しばらくして、ただこのままにしておくべきではないので、女房はお返事を書かれた。心苦しく胸をしめつけられるような二年を過ごした心のうちを書きなさって、

「あなたのせいで もし私も悪名を 流すことになったとしても 水底のくずに ともになりたい」




posted by manabiyah at 12:26| 平家物語過去分 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする