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2013年07月04日

10分でわかる「平家物語」巻十「海道下」(重衡が、鎌倉へと連れられて行く)


↑「平家物語」原文の朗読・現代語訳・解説の音声ファイルです。
再生ボタンをクリックして聴くことができます。(各回10分程度)
右端のDLボタンからダウンロードしてiPodなどに入れて、
繰り返し聴くこともできます。(ページ下に全訳あり。)


都を出て日数ふれば、弥生もなかば過ぎ、春もすでに暮れなんとす。遠山の花は残の雪かと見えて、浦々島々かすみわたり、こし方行末の事ども、おもひつづけ給ふに、「されば是はいかなる宿業のうたてさぞ」とのたまひて、ただつきせぬ物は涙なり。御子の一人もおはせぬ事を、母の二位殿もなげき、北方大納言佐殿も本意なきことにして、よろづの神仏に祈り申されけれども、そのしるしなし。「かしこうぞなかりける。子だにあらましかば、いかに心ぐるしからむ」とのたまひひけるこそせめての事なれ。さやの中山にかかり給ふにも、又こゆべしともおぼえねば、いとど哀れのかずそひて、たもとぞいたくぬれまさる。宇都の山辺の蔦の道、心ぼそくも打越えて、手越をすぎてゆけば、北に遠ざかッて、雪白き山あり。とへば甲斐の白根といふ。其時三位中将おつる涙をおさへて、かうぞ思ひつづけ給ふ。


 惜しからぬ命なれどもけふまでぞつれなきかひのしらねをもみつ


清見が関うちすぎて、富士のすそ野になりぬれば、北には青山峨々として、松ふく風索々たり。南には蒼海漫々として、岸うつ浪も茫々たり。「恋せばやせぬべし、こひせずもありけり」と、明神の歌ひはじめ給ひける足柄の山をもうちこえて、こゆるぎの森、鞠子河、小磯、大磯の浦々、やつまと、とがみが原、御輿が崎をもうちすぎて、いそがぬ旅と思へども、日数やうやうかさなれば、鎌倉へこそ入り給へ。



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「平家物語連続講義放送リスト」
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〈現代語訳〉


都を出て何日も経ったので、三月も半ばを過ぎて春もすでに暮れようとしていた。遠くの山に見える花は、残雪のようにみえて、浦々島々が一面に霞み渡っている。重衡はこれまでのことや、今後のことを、思いつづけなさると「だからこれはどのような前世の業によるひどい報いなのだ。」とおっしゃって、ただつきないものは涙であった。重衡に子どもがひとりもおありでなかったことを、母の二位の尼も嘆き、正妻である大納言の佐殿も、不本意だとして、様々な神や仏に祈り申しあげたが、その効果はない。(重衡が)「子がなくて賢明であった。もしかえって子でもあったら、どんなに心苦しかっただろう。」と、おっしゃったことは切なるものであった。さやの中山にさしかかりなさったが二度と再び越えられるとは思われなかったので、ますます悲しみが加わって、涙で袖を激しくお濡らしになった。宇都の山辺の蔦の道を心細いながら越えて、手越を過ぎていくと、北の方に遠く、雪で白い山がある。尋ねると、甲斐の白根山であるという。そのとき三位中将重衡は落ちる涙をおさえて、このように思い、歌に詠んだ。

「惜しくない わが命であるが 今日まで 恥を知らずにおめおめと生きてきた甲斐があった (甲斐の国の)白根山を見る事ができた」

清見の関所を過ぎて、富士山の裾野になったので、北側には青々とした山が険しくそびえて、松の間を吹く風もさびしく響く。南には青い海が漫々と水をたたえて、岸を打つ波の音も激しい。「私を恋しく思っていたならきっとやせるはずだ。あなたは私を恋しく思わないでいたのだ。」と足柄明神が歌いはじめなさったという足柄の山を越えて、こゆるぎの森、鞠子河、小磯、大磯の浦々、やつまと、とがみが原、御輿が崎をもうちすぎて、急がない旅であると思ったが、日数もしだいに重なったので、重衡は鎌倉へとお入りになった。

posted by manabiyah at 08:03| 平家物語過去分 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする