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2013年07月07日

10分でわかる「平家物語」巻十「千手前」(重衡は意外にも手厚く温情あふれるあつかいをされる)



↑「平家物語」原文の朗読・現代語訳・解説の音声ファイルです。
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されども狩野介、なさけある者にて、いたくきびしうもあたり奉らず。やうやうにいたはり、湯殿しつらひなどして、御湯ひかせ奉る。道すがらの汗いぶせかりつれば、身をきよめてうしなはんずるにこそと思はれけるに、よはひ廿ばかりなる女房の、色しろう清げにて、まことに優にうつくしきが、目結の帷に染付の湯巻して、湯殿の戸をおしあけて参りたり。又しばしあッて、十四五ばかりなる女の童の、紺村濃のかたびらきて、髪はあこめだけなるが、半挿盥に櫛いれて、もッて参りたり。此女房介錯して、あがりたまひぬ。


さてかの女房いとま申してかへりけるが、「男なンどはこちなうもぞおぼしめす。なかなか女は苦しからじとて、参らせられて候ふ。『何事でも思し召さん御事をば承ッて申せ』とこそ兵衛佐殿は仰られ候ひつれ」。中将「今は是程の身になッて、何事をか申し候ふべき。ただ思ふ事とては出家ぞしたき」とのたまひければ、帰り参ッて此よしを申す。兵衛佐「それ思ひもよらず。頼朝が私のかたきならばこそ。朝敵としてあづかり奉ッたる人なり。努々あるべうもなし」とぞのたまひける。三位中将守護の武士にのたまひけるは、「さても唯今の女房は、優なりつる物かな。名をば何といふやらん」と問れければ、「あれは手越の長者がむすめで候ふを、みめ形、心ざま、優にわりなき者で候ふとて、此二三年めしつかはれ候ふが、名をば千手の前と申し候ふ」とぞ申しける。


平家物語連続講義のこれまでの内容を物語の展開順にまとめました。
「平家物語連続講義放送リスト」

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【アイテム紹介】これに続く場面では「琵琶」が演奏されます。「平家物語」はもともと琵琶法師の語りであったというのはよく言われますが、皆さんは「琵琶」という楽器についてあまり馴染みが無いのではないでしょうか? 「琵琶」といっても楽琵琶、平家琵琶、薩摩琵琶、筑前琵琶など種類は様々です。「平家物語」中に登場する琵琶は「楽琵琶」。雅楽で用いられるタイプの琵琶です。平家滅亡後に「平曲」として「平家物語」を語るために用いられたのが「平家琵琶」です。「薩摩琵琶」や「筑前琵琶」は「平家物語」の時代には存在しなかった「近代琵琶」です。そんな様々な琵琶の音色の違いを楽しむことができる豪華ボックスセットがこちらです。日本の琵琶楽を初めて総体的に紹介した1963年制作の芸術祭受賞作品です。

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〈現代語訳〉


しかしながら狩野介(かののすけ)は情け深い者であって、重衡にさほど厳しくもあたり申し上げなかった。いろいろ気を配って、湯殿を準備して、湯を浴びさせ申し上げた。「旅の道中の汗が不快であったので、身を清めさせてから処刑するのだろう。」と、重衡は思いなさったのだが、二十歳ほどである女房で、色が白く美しく、本当に優美でかわいらしい女房が、絞り染めのひとえに、藍色の模様を染め付けた湯巻を着て、湯殿の戸を開けて参上した。またしばらくして、十四、五歳ほどである女のわらわで、淡い紺色にところどころを濃紺にそめたかたびらを着て、髪はあこめの長さほどであるわらわが、柄(え)がついているたらいに櫛をいれてもって参った。この女房はつきそって世話をして、重衡はお湯からあがりなさった。


そして、その女房がおいとま申し上げて帰りなさる時、「男などでは重衡殿が、無風流なことだとお思いになっては困る。かえって女の方がさしつかえないだろうと、私を参上させたのです。『何事でも重衡殿が思いなさる事をうかがい申し上げよ』と、頼朝様はおっしゃられました。」(と言った。)重衡中将は言った。「今はこれほどの我が身となって、何事を申し上げようか。ただ思うこととしては出家をしたい。」とおっしゃったので、女房は帰りまいってこの旨を頼朝に申し上げる。頼朝は言った。「それは思いもよらないことだ。私頼朝の個人的な敵であるならばよいが、朝廷の敵として預かりもうしあげている人である。決して決してあるべきことではない。」とおっしゃった。重衡が、警護の武士におっしゃったことには、「それにしてもただ今の女房は、優美であったものだなあ。名をなんと言うのであろうか。」と問われたので、「あの者は手越の長者のむすめでございますが、容姿、心映え、優美でこの上もない者でありますということで、ここ二、三年めしつかわれておりますが、名前を千手の前と申します。」と申し上げた。

posted by manabiyah at 16:13| 平家物語過去分 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする