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2013年07月18日

10分でわかる「平家物語」巻十「千手前」その2(平重衡と千手の前という女房のエピソード)


↑「平家物語」原文の朗読・現代語訳・解説の音声ファイルです。
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その夕、雨すこしふッて、よろづものさびしかりけるに、件の女房、琵琶・琴もたせて参りたり。狩野介酒をすすめ奉る。我身も家子郎等十余人引き具して参り、御まへちかう候ひけり。千手の前酌をとる。


三位中将すこしうけて、いと興なげにておはしけるを、狩野介申しけるは、「かつきこしめされてもや候ふらん。鎌倉殿の「相構てよくよくなぐさめ参らせよ。懈怠にて頼朝うらむな」と仰られ候。宗茂はもと伊豆国の者にて候ふ間、鎌倉では旅にて候へども、心の及び候はんほどは、奉公仕り候ふべし。何事でも申して、すすめ参らッさせ給へ」と申しければ、千手前、酌をさしおいて、「羅綺の重衣たる、情ない事を奇婦に妬む」といふ朗詠を一両返したりければ、三位中将のたまひけるは、「此朗詠をせん人をば、北野の天神一日に三度かけてまぼらんとちかはせ給ふなり。されども重衡は、此生にてはすてられ給ひぬ。助音しても何かせん。罪障かろみぬべき事ならばしたがふべし」とのたまひければ、千手前やがて、「十悪といへども引摂す」と云ふ朗詠をして、「極楽願はん人はみな、弥陀の名号唱ふべし」といふ今様を、四五返歌ひすましたりければ、其時、坏をかたぶけらる。


千手前給はッて狩野介にさす。宗茂がのむ時、琴をぞひきすましたりける。三位中将のたまひけるは、「此楽をば普通には五常楽といへども、重衡が為には後生楽とこそ観ずべけれ。やがて往生の急を弾かん」とたはぶれて、琵琶をとり、転手をねぢッて、皇じやうの急をぞひかれける。

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「平家物語連続講義放送リスト」

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〈現代語訳〉


その夕べ、雨が少し降って、あれこれともの寂しい感じだった時に、例の女房が琵琶や琴をもたせて重衡のもとに参上した。狩野介むねもちが重衡に酒をすすめ申し上げた。狩野介自身も家来たち10人あまりを連れて重衡のもとに参って、重衡の前近くにお控えした。千手の前がお酌をした。


重衡中将は少し盃をうけて、とても楽しめない様子でいらっしゃったので、狩野介が申したことには、「すでにお聞きになっているでしょうか。頼朝殿が『充分によく重衡殿を慰め申し上げよ、いい加減なもてなしをして咎められても頼朝を恨むな』とおっしゃられております。私、むねもちは、もともとは伊豆の国のものでございますので、鎌倉では旅の者ではありますが、心のおよびます限りは、あなたに奉公いたすつもりです。(千手の前よ。)歌でも何でも献上し申しあげて(重衡様に)お酒を召し上がって頂きなさい。」と申したところ、千手の前は、酌をするのをいったんやめて、「薄い衣でさえ重く感じている 情けない事に衣を織った者をうらむ」という朗詠を一、二度したので、重衡中将がおっしゃったことには、「この朗詠をするような人を、北野天神は一日に三度、飛んできて見守ろうと近いなさったそうだ。しかし私重衡は、この人生においては、天神もお見捨てになった。あなたに続いて歌っても仕方ない。罪が軽くなるならばあなたに続いて歌おう。」とおっしゃったので、千手の前はすぐに「十悪と言っても道びく」という朗詠をして「極楽を願うような人は皆 阿弥陀の名を唱えるがよい」という今様を心を集中して四、五回歌ったので、その時、重衡は盃をかたむけなさった。


千手の前は盃を頂いて、狩野介にさした。狩野介むねもちが飲む時には、琴を心をこめて弾いた。重衡中将がおっしゃたことには「この楽を普通は五常楽(ごじょうらく)というが、わたくし重衡にとっては後生楽(ごしょうらく)とみるべきだ。すぐに往生の急を弾こう。」と、重衡はたわむれて、琵琶をとって、琵琶のてんじゅの部分をねじって音を合わせて、皇じょうの急という曲を弾かれた。

posted by manabiyah at 08:34| 平家物語過去分 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする