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2013年11月21日

10分でわかる「平家物語」巻十一「那須与一その3」(見事に扇を射落とした那須与一)


↑「平家物語」原文の朗読・現代語訳・解説の音声ファイルです。
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矢ごろすこし遠かりければ、海へ一段ばかりうち入れたれども、猶扇のあはひ七段ばかりはあるらむとこそ見えたりけれ。ころは二月十八日の酉刻ばかりの事なるに、をりふし北風はげしくて、磯うつ浪もたかかりけり。舟はゆりあげゆりすゑただよへば、扇もくしに定まらずひらめいたり。おきには平家舟を一面にならべて見物す。陸には源氏くつばみをならべて是を見る。いづれもいづれも晴ならずといふ事ぞなき。


与一目をふさいで、「南無八幡大菩薩、我国の神明、日光権現宇都宮、那須のゆぜん大明神、願くはあの扇のまンなか射させてたばせ給へ。これを射そんずる物ならば、弓きり折り自害して、人に二たび面をむかふべからず。いま一度本国へむかへんとおぼしめさば、この矢はづさせ給ふな」と、心のうちに祈念して、目を見開いたれば、風も少し吹きよはり、扇も射よげにぞなッたりける。与一鏑をとてつがひ、よッぴいてひやうどはなつ。小兵といふぢやう十二束三ぶせ、弓はつよし、浦ひびく程ながなりして、あやまたず扇のかなめぎは一寸ばかりおいて、ひィふつとぞ射きッたる。鏑は海へ入りければ、扇は空へぞ上がりける。しばしは虚空にひらめきけるが、春風に一もみ二もみもまれて、海へさッとぞ散ッたりける。夕日のかかやいたるに、みな紅の扇の日いだしたるが、白浪のうへにただよひ、うきぬしづみぬゆられければ、奥には平家ふなばたをたたいて感じたり、陸には源氏、箙をたたいてどよめきけり。


平家物語連続講義のこれまでの内容を物語の展開順にまとめました。
「平家物語連続講義放送リスト」
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【アイテム紹介】「平家物語」には数多くの異本(バージョン違い)がありますが、新潮社からは「百二十句本」が出版されています。例えば、ここで与一が言うセリフは「百二十句本」では「これを射損ずるほどならば、弓切り折り、海に沈み、大龍の眷属となって長く武士の仇とならんずるなり」とあり、単にスマートに「失敗したら自害する」だけでなく「海中の龍の一族となる」などと「泥臭い」内容を語っています。このように同じ場面を異本で読み比べることで、新たな発見を得ることができるのも「平家物語」の面白いところです。

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平家物語(百二十句本) 上

平家物語(百二十句本) 中

平家物語(百二十句本) 下

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〈現代語訳〉


矢を射るのには少し遠かったので、海に10メートルほど、馬を乗り入れたが、依然として扇までの距離が70メートルほどはあるだろうと見えた。時は2月18日の午後6時ほどの時であるが、ちょうど北風が激しく、磯に打ち寄せる波の高さも高かった。船は波にゆられて上下に漂うので、扇も竿の先で定まらずひらめいていた。沖の方では平家が船をずらっとならべて見物する。陸では源氏が、馬のくつわを並べてこれを見る。どちらもどちらも晴れがましさの無い所では無い。

与一は目をふさいで心で言った。「ああ、八幡大菩薩さまよ。我が故郷の神、日光権現宇都宮、那須のゆぜんの大明神さまよ。願うことなら。あの扇の真ん中を射させなさってください。もし私がこれを射そんじたならば、弓を切りおって、自害して、人に対して二度と再び顔をあわせることはできない。もう一度、わたしを故郷の国へ迎えようとお思いになるなら、この矢を私にはずさせなさるな。」と、心の中で祈りを捧げて、目を見開いたところ、風も少し勢いが弱まり、扇も射やすくなっていた。与一は鏑矢をとって、弓につがえて、よく引いてからひゅっと放った。与一は小兵ということで、矢はさほど長くはないが、弓の張り具合は強かった。浦中に響き渡るほど長く鳴って、過つことなく、扇の要から一寸ほどおいたところを、ひいふっと射きった。鏑矢は海にはいって、扇は空へと舞い上がった。しばらくは空中にひらめいていたが、春風にひともみ、ふたもみ、もまれて海の中へさっと散ったのだった。夕陽が輝いている中に、赤地に金色の日の丸を描いた扇が、白い波の上に漂って、浮いたり沈んだりゆられていたので、沖では平家が船べりを叩いて感嘆し、陸では源氏が、矢を入れるえびらを叩いてどよめいた。

posted by manabiyah at 15:57| 平家物語過去分 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする