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2011年03月17日

10分でわかる「平家物語」巻三「医師問答」(不吉な死への予兆を漂わせていた平重盛)


↑「平家物語」原文の朗読・現代語訳・解説の音声ファイルです。
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小松のおとど、かやうの事どもを聞き給ひて、よろづ心ぼそうや思はれけん、其比熊野参詣の事有りけり。本宮証誠殿の御前にて、夜もすがら敬白せられけるは、


「親父入道相国の体を見るに、悪逆無道にして、ややもすれば君をなやまし奉る。重盛長子として、頻りに諫をいたすといへども、身不肖の間、かれもッて服膺せず。そのふるまひを見るに、一期の栄花猶あやうし。枝葉連続して、親を顕し名を揚げん事かたし。此時に当って重盛いやしうも思へり。なまじいに列して世に浮沈せん事、あへて良臣孝子の法にあらず。しかじ、名を逃れ身を退いて、今生の名望を抛て、来世の菩提を求めんには。但し凡夫薄地、是非にまどへるが故に、猶心ざしを恣にせず。南無権現金剛童子、願くは子孫繁栄絶えずして、仕へて朝廷にまじはるべくは、入道の悪心を和げて、天下の安全を得しめ給へ。栄耀又一期を限って、後混恥に及ぶべくは、重盛が運命をつづめて、来世の苦輪を助け給へ。両ケの求願、ひとへに冥助を仰ぐ」と肝胆をくだいて祈念せられけるに、燈籠の火のやうなる物の、おとどの御身より出て、ばッと消ゆるが如くして失せにけり。人あまた見奉りけれども、恐れて是を申さず。


又下向の時、岩田川を渡られけるに、嫡子権亮少将維盛以下の公達、浄衣の下に薄色のきぬを着て、夏の事なれば、なにとなう河の水に戯れ給ふ程に、浄衣のぬれて、衣にうつッたるが、偏に色のごとくに見えければ、筑後守貞能これを見とがめて、「何と候ふやらん、あの御浄衣のよに忌はしきやうに見えさせおはしまし候。召しかへらるべうや候ふらん」と申しければ、おとど、「わが所願既に成就しにけり。其浄衣敢へてあらたむべからず」とて、別して岩田川より、熊野へ悦の奉幣をぞ立られける。人あやしと思ひけれども、其心をえず。しかるに此の公達、程なくまことの色を着給ひけるこそ不思議なれ。


平家物語連続講義のこれまでの内容を物語の展開順にまとめました。
「平家物語連続講義放送リスト」
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平家物語 (岩波新書)


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〈現代語訳〉


小松の大臣、平重盛はこのような占いを聞きなさって、あれこれと心細くお思いになったのだろうか、そのころ、熊野へお参りになることがあった。本宮証誠殿の前で、一晩中、申し上げられたことには、


「わが父、清盛入道の様子をみると、悪逆、無道な振る舞いで、ともすれば帝をも悩まし申し上げる。私、重盛は長男として、頻繁にいさめることをいたしましたが、わが身が愚かであるために、父はそれを心にとどめてくれない。父清盛の振る舞いを見ると、父一代の栄光でさえやはり危うい。子孫が続いて、親を世間にたたえて名をあげるようなことは難しい。このときにあたって私重盛はいやしくもこう思っています。なまじ重臣たちの中に並んで位を世に浮き沈みするようなことは、必ずしも良い家臣、孝行の子のやり方ではない。名声を捨てて、身を退いて、現世での名誉や希望を投げ捨てて、来世における菩提を求めることには及ばない。ただし卑しい凡夫である我が身は、良い悪いの判断に戸惑っているがゆえに、やはり出家の志を思うままに貫けない。ああ権現金剛童子よ願う事ならわが子孫の反映は絶える事無く平家がこのままお仕えして、朝廷に交わることができるならば、父清盛入道の悪い心をやわらげて、平家の栄華が父清盛の代で限りとなって、後に子孫に恥辱が及ぶならば、重盛の寿命を縮めて、来世の限りない苦しみから助けてください。両方の願いについて、ただひたすらお助けを仰ぎたいです。」と、心を砕いてお祈りされたところ、灯籠の火のようなものが、重盛大臣のおからだから出て、ぱっと火が消えるようにして消えてしまった。多くの人が見申し上げたが、恐れて是を申し上げない。


またお帰りの時に、岩田川を渡られたのだが、嫡子権亮少将維盛(ごんのすけ・じょうしょう・これもり)以下の公達は、白装束の下に薄紫色のころもを着て、夏の事なので、なんということもなく川の水で戯れなさった時に、(重盛の)白装束が濡れて、下の衣が透けて見えたのが、ただ喪服の色のように見えたので、筑後守貞能(ちくごのかみさだよし)が、これを見てとがめて、「なんということでございましょう。あなたの白装束がまことに忌まわしいように見えなさっております。着替えなさるべきでございましょう。」と申したところ、大臣重盛は「私の願いは既に成就した。この白装束をわざわざ着替えるつもりはない。」と言って、特別に岩田川から熊野へお礼の幣を奉る使者を遣わしなさった。周りの人は奇妙だと思ったが、その意味がわからない。しかしながらこの公達がまもなく、本当に喪服を着なさったのは不思議である。

posted by manabiyah at 00:00| 平家物語過去分 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする