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2012年01月26日

10分でわかる「平家物語」巻六「小督」(小督を愛していた隆房少将)


↑「平家物語」原文の朗読・現代語訳・解説の音声ファイルです。
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繰り返し聴くこともできます。(ページ下に全訳あり。)


主上恋慕の御思ひにしづませをはします。申しなぐさめ参らせんとて、中宮の御かたより小督殿と申す女房を参らせらる。此女房は桜町の中納言成範の卿の御むすめ、宮中一の美人、琴の上手にてをはしける。冷泉大納言隆房卿、いまだ少将なりし時、みそめたりし女房なり。少将はじめは歌をよみ、文をつくし、恋ひかなしみ給へども、なびく気色もなかりしが、さすがなさけに弱る心にや、遂にはなびき給ひけり。


されども今は君に召され参らせて、せんかたもなく悲しさに、あかぬ別の涙には、袖しほたれてほしあへず。少将よそながらも小督殿み奉る事もやと、つねは参内せられけり。おはしける局の辺、御簾のあたりを、あなたこなたへ行きとほり、たたずみありき給へども、小督殿「われ君に召されん上は、少将いかにいふとも、詞をもかはし、文を見るべきにもあらず」とて、つてのなさけをだにもかけられず。少将もしやと一首の歌を詠うで、小督殿のおはしける御簾の内へ投げ入れたる。


思ひかねこころはそらにみちのくのちかのしほがまちかきかひなし


小督殿やがて返事もせばやと思はれけめども、君の御ため、御うしろめたうや思はれけん、手にだにとッても見給はず。上童にとらせて、坪のうちへぞ投げいだす。少将なさけなう恨しけれども、人もこそみれとそらおそろしう思はれければ、いそぎ是を取ッてふところに入れてぞ出られける。なほたちかへッて


たまづさを今は手にだに取らじとやさこそ心に思ひ捨つとも


今は此世にてあひ見ん事もかたければ、生きてものを思はんより、死なんとのみぞ願はれける。


平家物語連続講義のこれまでの内容を物語の展開順にまとめました。
「平家物語連続講義放送リスト」

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〈現代語訳〉


高倉天皇は恋心に思い沈んでいらっしゃる。お慰め申し上げようと中宮の方から小督殿(こごうどの)と申す女房を差し上げなさった。この女房は桜町の中納言成範(しげのり)の卿の御むすめで、宮中一の美人で、琴の名手でいらっしゃった。冷泉大納言、藤原隆房が少将だった時、みそめた女房である。少将は最初は歌を詠みかけ、手紙を何度も書いて、恋慕しなさったけれど、小督は少将になびく様子もなかったが、そうはいっても情にほだされてしまったのか、小督は少将へとなびきなさった。


けれども今は天皇のもとに召され申し上げて、どうしようもない悲しさで、心のおさまらない別れの涙で、袖が濡れて乾くことはない。少将は外からでも小督を見申し上げることもあるかと思いつつ、いつも参内しなさった。少将は小督のいらしゃった部屋や御簾のあたりを、あちらこちらと行き来し、立ちとまったり歩き回りなさったが、小督が言うには「私が帝に召された上は、少将がどう言っても、言葉を交わしたり、手紙を見るべきではない。」と、人づての愛情さえもおかけにならない。少将はもしやと思って一首の歌を詠んで、小督がいらっしゃった御簾の中に投げ入れた。


「あなたへの思いに耐えかねて 心も空しく (千賀の浦のちかではないが) あなたの近くにいっても その甲斐もありませんでした」


小督はすぐに返事をしたいとお思いになっただろうが、帝を思うと気がひけたのだろうか、手に取ってみることさえしなさらない。仕える童に命じて、中庭の外へとその手紙を投げ出した。少将は情けなく恨めしかったが、人が見ていたら大変だと恐ろしく思われたので、いそいでこの投げ捨てられた手紙を取って懐にいれて出て行かれた。それでもなお帰ってから、


「私の手紙を もう手にさえも 取らないのでしょうか それほどに 私を思い捨てなさったとしても」


少将は小督とこの世で再び会うことも難しいので「生きて悩むより、いっそ死のう」とばかり願いなさった。



posted by manabiyah at 00:25| 平家物語過去分 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする