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2012年04月26日

10分でわかる「平家物語」巻七「願書」(義仲が八幡神社に祈りを願書を奉納して、吉兆を得る)


↑「平家物語」原文の朗読・現代語訳・解説の音声ファイルです。
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繰り返し聴くこともできます。(ページ下に全訳あり。)


「あはや、源氏の先陣は向ふたるは。定めて大勢なるらん。左右なう広みへ打ち出でなば、敵は案内者、我等は無案内なり、とりこめられてはあしかりなん。此山は四方巖石であんなり。搦手へはよもまはらじ。馬の草がひ、水便共によげなり。しばしおりゐて馬やすめん」とて、砥浪山の山中、猿の馬場といふ所にぞおりゐたる。


木曾は羽丹生に陣とッて、四方をきッと見まはせば、夏山の嶺のみどりの木の間より、朱の玉がきほの見えて、かたそぎ作りの社あり。前に鳥居ぞたッたりける。木曾殿国の案内者をめして、「あれはいづれの宮と申すぞ。いかなる神をあがめ奉るぞ」。「八幡でましまし候ふ。やがて此所は八幡の御領で候ふ」と申す。木曾大きに悦びて、手書に具せられたる大夫房覚明をめして、「義仲こそ幸ひに新八幡の御宝殿に近付き奉りて、合戦をとげむとすれ。いかさまにも今度のいくさには相違なく勝ちぬとおぼゆるぞ。さらんにとッては、且つうは後代のため、且つうは当時の祈祷にも、願書を一筆かいて参らせばやと思ふはいかに」。


覚明「尤も然るべう候」とて、馬よりおりてかかんとす。覚明が体たらく、かちの直垂に黒革威の鎧きて、黒漆の太刀をはき、廿四さいたる黒ぼろの矢負ひ、塗籠籐の弓、脇にはさみ、甲をばぬぎ、たかひもにかけ、えびらより小硯、たたう紙とり出し、木曾殿の御前に畏ッて願書をかく。あッぱれ文武二道の達者かなとぞ見えたりける。


平家物語連続講義のこれまでの内容を物語の展開順にまとめました。
「平家物語連続講義放送リスト」

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【アイテム紹介】源氏の氏神として知られるのは「八幡神社」ですが、それ以外にも「平家物語」には様々な神社が登場します。「平家物語」を入口に神社について学ぶのも面白いと思います。
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〈現代語訳〉


「ああ、源氏の先陣が向かってきたぞ。きっと大勢であるようだ。むやみに広いとことで出てしまったら、敵は地理にここら辺りの事情に通じているが、我々は不案内である。取り囲まれたら危険だろう。この山は四方が岩壁で囲まれているようだ。源氏が背後にまわる事はまさかないだろう。馬に草を食べさせるにも、水の便も、とみに良さそうだ。しばらく馬から下りてとまって馬をやすめよう。」砺波山の山中の猿の馬場ということに降りた。


義仲は、羽丹生(はにゅう)に陣をとって、四方をキッと見回したところ、夏山の峰の緑の木々の間から、朱で塗った垣根がちらりと見えて、かたそぎ作りの神社があった。前に鳥居が立っていた。義仲は、この国の事情に通じている者を呼んで、「あれはなんという神社だ。どんな神をあがめ申し上げているのだ。」(と尋ねた。)(その者は)「八幡さまでいらっしゃいます。他ならぬここも八幡神社の所領でございます。」と申しあげた。義仲は大いに喜んで、手書きとしてお連れになっていた、大夫房覚明(だいぶぼう・かくめい)という者をお呼びになって、「私、義仲は幸いな事に八幡神社の分社の宝殿に近づき申し上げて、きっと今度のいくさにも間違いなく勝つだろうと思われる。そうであるからには、一方で後世のために、一方で当面のことを祈るために、願いの書を一筆書いて奉納しようと思うが、どうだろうか。」(と言う。)覚明は「もっともです。そうしましょう」と馬から下りて書こうとする。


覚明のいでたちは、濃紺の布地の直垂に、黒革威(くろかわおどし)の鎧(よろい)を着て、黒い漆で塗った太刀を身につけ、二十四本さした黒い羽を使った矢を背負って、とうを巻き、漆でかためた弓を脇に挟んで、甲を脱いで、鎧のたかひもにかけて、矢をいれるえびらから、硯と懐紙を取り出して、義仲の前にかしこまって、神への願いの文を書いた。「ああ学問武芸の二つの道に通じたものだ」と見えた。


posted by manabiyah at 00:00| 平家物語過去分 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする