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2012年05月24日

10分でわかる「平家物語」巻七「実盛」(髪とひげを黒く染めて闘った斎藤実盛が討ち死に)


↑「平家物語」原文の朗読・現代語訳・解説の音声ファイルです。
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手塚太郎、郎等がうたるるをみて、弓手にまはりあひ、鎧の草摺ひきあげて二刀さし、弱るところにくんでおつ。斎藤別当心はたけく思へども、いくさにはしつかれぬ、其上老武者ではあり、手塚が下になりにけり。又手塚が郎等おくれ馳せに出できたるに頸とらせ、木曾殿の御まへに馳せ参ッて、「光盛こそ奇異のくせ者くんでうッて候へ。侍かと見候へば錦の直垂をきて候ふ。大将軍かと見候へばつづく勢も候はず。名のれ名のれとせめ候ひつれども、終に名乗り候はず。声は坂東声で候ひつる」と申せば、木曾殿「あッぱれ、是は斎藤別当であるごさんめれ。それならば義仲が上野へこえたりし時、おさな目に見しかば、しらがのかすをなりしぞ。いまは定めて白髪にこそなりぬらんに、びんぴげのくろいこそあやしけれ。樋口次郎は馴れあそンで見しッたるらん。樋口めせ」とてめされけり。


樋口次郎ただ一目みて、「あなむざんや、斎藤別当で候ひけり」。木曾殿「それならば今は七十にもあまり、白髪にこそなりぬらんに、びんぴげのくろいはいかに」とのたまへば、樋口次郎涙をはらはらと流いて、「さ候へばそのやうを申しあげうど仕り候ふが、あまり哀れで不覚の涙のこぼれ候ふぞや。弓矢とりはいささかの所でも思ひいでの詞をば、かねてつかひ置くべきで候ひける物かな。斎藤別当、兼光にあうて、つねは物語に仕り候ひし。「六十にあまッていくさの陣へむかはん時は、びんぴげを黒う染めてわかやがうど思ふなり。其故は、若殿ばらにあらそひてさきをかけんもおとなげなし、又老武者とて人のあなどらんも口惜しかるべし」と申し候ひしが、まことに染めて候ひけるぞや。洗はせて御らん候へ」と申しければ、「さもあるらん」とて、あらはせて見給へば、白髪にこそ成りにけれ。


平家物語連続講義のこれまでの内容を物語の展開順にまとめました。
「平家物語連続講義放送リスト」

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〈現代語訳〉


手塚太郎は、自分の郎等が討たれるのを見て、左手にまわって斎藤の鎧の腰の部分のくさずりをひきあげて刀を二刺しして、斎藤が弱るところに組み付いてともに馬から落ちた。斎藤は、心では勇ましい気持ちだったが、戦いに疲れていた。その上、年老いた武者であり、手塚の下になってしまった。また手塚の郎等で遅れて馳せ参じて来たものに斎藤の首を取らせて、手塚は義仲の前に馳せ参じて、「私、手塚光盛は奇妙なくせものを討ち取りました。普通の侍かと思ってみましたところ、錦の直垂を着ております。大将軍かと見ましたところ、続く軍勢もおりません。名乗れ、名乗れと攻め立てましたが、とうとう名乗りませんでした。声は関東なまりでした。」と申し上げると、義仲は「ああ、是は斎藤別当であるようだ。だがもし斎藤であるなら、私義仲が上野へ越えていた時、幼い目で見たところ、白髪まじりの頭であったぞ。今はきっと白髪頭になっているだろうに髭や髪が黒いのは奇妙だ。樋口次郎は慣れ親しんで斎藤のことを見知っているだろう。樋口を呼べ。」と、樋口をお呼びになった。


樋口次郎はその首をただ一目見ていった。「ああ、いたわしい。斎藤別当でございますことだよ。」義仲は「それならば今は七十歳を過ぎて、白髪になっているだろうに、髪やひげが黒いのはどういうことだ。」とおっしゃると、樋口次郎は涙をはらはらと流して「そうでございますので、その理由を申し上げようといたすますが、あまりに悲しくて思わず涙がこぼれますよ。弓矢を取る武士というものは、ちょっとしたところでも、思い出となるべき言葉を、前もって使っておくべきことでございますなあ。斎藤は私樋口次郎兼光にあって、常に語っておりました。『六十を過ぎて、戦場に向かうような時は、髪や髭を黒く染めて若やごうと思うのだ。そのわけは、若い武者と争って先を駆けるようなことも分別がないようだ。また老いた武者だと人があなどるようなことも残念である。』と斎藤は申しておりましたが、本当に染めておりましたのだ。洗わせて御覧ください、と樋口が申したので、そういうこともあるのだろう」と洗わせて見なさると、その首は白髪になってしまった。


posted by manabiyah at 00:00| 平家物語過去分 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする