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2012年06月21日

10分でわかる「平家物語」巻七「主上都落」(都落ちをすることを決意した平宗盛と建礼門院徳子の会話)


↑「平家物語」原文の朗読・現代語訳・解説の音声ファイルです。
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繰り返し聴くこともできます。(ページ下に全訳あり。)


源氏の方には十郎蔵人行家、数千騎で宇治橋より入るとも聞えけり。陸奥新判官義康が子、矢田判官代義清、大江山をへて上洛すとも申しあへり。摂津国河内の源氏等、雲霞のごとくに同じく都へみだれ入るよし聞えしかば、平家の人々「此上はただ一所でいかにもなり給へ」とて、方々へむけられたる討手共、都へ皆よび返されけり。帝都名利地、鶏鳴て安き事なし。をさまれる世だにもかくのごとし。況や乱れたる世においてをや。吉野山の奥のおくへも入りなばやとはおぼしけれども、諸国七道悉くそむきぬ。いづれの浦かおだしかるべき。三界無安猶如火宅とて、如来の金言一乗の妙文なれば、なじかはすこしもたがふべき。


同じき七月廿四日のさ夜ふけがたに、前内大臣宗盛公、建礼門院のわたらせ給ふ六波羅殿へ参ッて申されけるは、「此世のなかのあり様、さりともと存じ候ひつるに、いまはかうにこそ候ふめれ。ただ都のうちでいかにもならんと、人々は申しあはれ候へ共、まのあたりうき目を見せ参らせむも口惜しう候へば、院をも内をもとり奉ッて、西国の方へ御幸行幸をもなし参らせて見ばやとこそ思ひなッて候へ」と申されければ、女院「今はただともかうも、そこのはからひにてあらんずらめ」とて、御衣の御袂にあまる御涙せきあへさせ給はず。大臣殿も直衣の袖しぼる計に見えられけり。


平家物語連続講義のこれまでの内容を物語の展開順にまとめました。
「平家物語連続講義放送リスト」

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【アイテム紹介】「創られた国民的叙事詩」というのは面白い視点。「平家物語」は国民的な文学であり叙事詩である、という一般常識はいかにして成立したかについて、客観的・学術的に分析がされています。「平家物語」の受容のされ方を通じて、明治以降、近代日本の文学が何を求めて、何を価値として来たのかも、透けて見えて来ます。ちなみに、この本は早稲田大学辺りの入試問題(文化構想学部とか)で「現古融合問題」「文語文融合問題」等の形で、出題がありそうな予感がします。
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『平家物語』の再誕―創られた国民叙事詩 (NHKブックス No.1206)

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〈現代語訳〉


源氏側には源十郎行家が、数千騎で宇治橋から京に入るとうわさになった。陸奥の国の新判官義康の子である。矢田の判官代の義清(よしきよ)が大江山を経て、上洛するとも申しあった。摂津の国や河内の国の源氏たちが、ウンカという虫のように同じく都に乱入するとの旨がうわさになったので、平家の人々は、「こうなった上はただ同じ場所でどうにでもなりなさるがよい。」と、あちこちに差し向けた討ち手たちを、都へみな呼び戻した。帝都は名誉や利益を求める地で、鶏が鳴く朝から心が休まらない。「治まっている世でのこのようなものだ。まして乱れている世ではなおさらだ。」吉野の山の奥の奥へでも入りたいとお思いになったが、諸国七道は皆ことごとく平家に背いていた。「どこの浦が平穏無事だろうか。どこにも平穏なところはない。火事に見舞われた家の中のように、輪廻転生するこの世界には落ち着けるところはない」といって、これは釈迦如来の口から出た真理を語る言葉なので、どうして少しでも違うところがあろうか、いや違わない。


同じく7月24日の夜更けごろに、前の内大臣平宗盛公が、建礼門院のいらっしゃる六波羅殿に参って申されたことには、「今の世の中の様子は、そうはいってもどうにかできると思っておりましたが、もはやこれまでのようでございます。ただ都の中でどうにでもなろうと、人々は申しあわれますが、悲惨な光景を目の当たりに見せ申し上げるのも残念ですので、後白河院と安徳天皇をお連れ申し上げて、西国の方へ御幸行幸させ申し上げてみたいと思うようになりました。」と申されたので、建礼門院は「今はただともかく、あなたのとりはからいにまかせましょう」と、衣のたもとにこぼれる涙をせき止めることがおできにならない。宗盛どのも涙で直衣の袖がしぼれるほどに見えなさった。

posted by manabiyah at 00:00| 平家物語過去分 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする