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2013年12月27日

10分でわかる「平家物語」巻十一「先帝身投その2」(二位の尼に抱かれ、海へと入った安徳天皇)



↑「平家物語」原文の朗読・現代語訳・解説の音声ファイルです。
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あきれたる御さまにて、「尼ぜ、われをばいづちへぐしてゆかんとするぞ」と仰せければ、いとけなき君に向かいたてまつり、涙ををさへ申されけるは、「君はいまだしろしめされさぶらはずや。先世の十善戒行の御ちからによつて、今、万乗のあるじと生まれさせ給へども、悪縁にひかれて、御運すでにつきさせ給ひぬ。まづ東にむかはせ給ひて、伊勢大神宮に御いとま申させ給ひ、その後、西方浄土の来迎にあづからんとおぼしめし、西にむかはせ給ひて、御念仏さぶらふべし。この国は粟散辺地とて、心うき境にてさぶらへば、極楽浄土とてめでたき所へぐし参らせさぶらふぞ」と、なくなく申させ給ひければ、山鳩色の御衣にびんづら結はせ給ひて、御涙におぼれ、ちいさくうつくしき御手をあはせ、まづ東をふしをがみ、伊勢大神宮に御いとま申させ給ひ、その後、西にむかはせ給ひて、御念仏ありしかば、二位殿やがていだき奉り、「浪のしたにも都のさぶらうぞ」となぐさめたてまつて、千尋の底へぞいり給ふ。


悲しき哉、無常の春の風、忽ちに花の御すがたを散らし、なさけなきかな、分段のあらき浪、玉体をしづめ奉る。殿をば長生と名づけてながきすみかとさだめ、門をば不老と号して、老せぬとざしとかきたれども、いまだ十歳のうちにして、底の水屑とならせ給ふ。十善帝位の御果報、申すもなかなかおろかなり。雲上の竜くだッて海底の魚となり給ふ。大梵高台の閣の上、釈提喜見の宮の内、いにしへは槐門棘路のあひだに九族をなびかし、今は舟のうち、浪のしたに御命を一時にほろぼし給ふこそ悲しけれ。

平家物語連続講義のこれまでの内容を物語の展開順にまとめました。
「平家物語連続講義放送リスト」
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【アイテム紹介】吉川英治「新・平家物語」を映像化。かつてのNHK大河ドラマの名作「新・平家物語」の総集編です。二位の尼は「小さくうつくしき御手を合わせる幼帝」をいざない入水へと向かいます。憔悴しきった中でも凛とした二位の尼を演じるのは中村玉緒。落日の壇の浦の映像が印象的です。是非、観てください。

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〈現代語訳〉


安徳天皇は茫然とした様子で「おばあさまは、私をどこへ連れていこうとするのですか」とおっしゃられると、幼い帝にむかい申し上げて、涙をおさえて申し上げたことは、「帝はまだご存じありませんか。前世で十善戒を守ったことで、現世は、帝の位についてお生まれになりましたが、悪い縁に導かれて、運命が、もはやつき果てなさってしまいました。まず、東をお向きになって伊勢神宮においとま申し上げ、そのあと、西方極楽浄土からのお迎えにあずかろうとお思いになって、西をお向きになって念仏をお唱えになってください。この国は粟を散らしたような辺境の小さな国ですので、極楽浄土といいて素晴らしいところへお連れ申し上げます。」と泣く泣く申し上げると、安徳天皇は、山鳩色の衣に、耳の辺りで束ねた髪でいらっしゃって、涙をこぼしながら、小さくかわいらしい手を合わせて、まず東をお向きになり、伊勢神宮においとまを申し、その後、西をお向きになって、念仏を唱えなさったので、波の下にも都がございますよ」と慰め申し上げて、深い千尋の海の底へとお入りになった。

悲しいことだ。無常の春の風が、一瞬にして花のようなお姿を散らし、情けないことだ、運命の荒波が、そのお身体をしずめ申し上げた。天皇の御所は、御殿を長生殿となづけて、長生きのための住処とし、門を不老と呼んで、老いぬための守りと書くのだが、まだ十歳にもならぬうちに、水中の塵となりなさった。十善による帝位であるはずの運命であるのに、これは申し上げようもないことだ。雲の上の龍がくだって、海底の魚となりなさった。大梵天の宮殿の中のようで、帝釈天の城のような、御殿に住まわれ、昔は大臣たちに囲まれ、平家一門を従えなさって、今は舟の中に住み、波の下に命を一瞬でほろぼしなさったのは悲しいことだ。

posted by manabiyah at 07:47| 平家物語過去分 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする