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2014年08月14日

君は「平家琵琶」を聴いたことがあるか?(その2)

こちらは前回の記事「君は『平家琵琶』を聴いたことがあるか?」の続編です。

「平家琵琶」「平曲」といえば「盲目の琵琶法師が語るもの」というイメージを持たれている方が多いと思いますが、「平曲(平家琵琶の伴奏を伴う平家物語の語り)」は必ずしも盲人の方だけによって受け継がれて来たものではありません。

晴眼者(目の見える人)による「平家琵琶の伴奏を伴う平家物語の語り」の伝統は、津軽(弘前藩)からの系譜を中心に、着々と受け継がれて来ました。(譜本を見ながら語るのが伝統的な方法です。)そして今もなお、その伝統は正統な形で引き継がれています。(詳しく知りたくなった方は是非、前田流平家詞曲相伝者・鈴木まどかさんのwebサイトをご参照ください。→平家詞曲研究所

晴眼者による「平家琵琶(平曲)」について、着目すべき点は、「盲人の伝承では途絶えてしまった曲も現代に引き継がれている」という点だと思います。前回の記事で紹介した名古屋の検校の皆様の伝承されている平家琵琶の語りは全部で8曲。それに対して晴眼者による伝承では、なんと200句もの曲が伝承されています。200句というのは、簡単に言えば、「平家物語の全部分を琵琶で語れる」ということです。

例えば「平家物語」の冒頭「祇園精舎の鐘の声」という部分。「中学校で暗記させられたよー」という方も多いと思いますが、この超有名部分の平家琵琶の語りも、「盲人による平曲伝承」においては、残念ながら、明治の頃には途絶えてしまっていたとのことです。秘曲扱いであり、「伝承に厳しい条件が課されていたこと」や「演奏回数も制限がされていたこと」などが、伝承の途絶えてしまった理由のようです。

ところが、この盲人伝承では途絶えてしまった

秘曲「祇園精舎」も晴眼者による伝承においては、
しっかりと受け継がれているというわけです!


ここではその秘曲「祇園精舎」の音源を紹介します。

演奏されているのは「館山甲午(たてやま こうご)」氏。前田流平家詞曲相伝者で、1969年に無形文化財の認定を受けている方です。甲午氏はすでに亡くなられていますが、現在活動されている「平家琵琶の相伝者」は皆、この甲午氏の弟子や、孫弟子にあたられる方々ばかりです。

そんな館山甲午氏による貴重な録音、1963年角川書店から発売されたソノシート「平家琵琶 秘曲 祇園精舎/館山甲午」からのバージョンです。こちらは現在廃盤となっていて極めて入手困難なものです。

まずは、前半部分。皆さんお馴染みの「祇園精舎の鐘の声」という部分です。(本来は歌い出しの前に長い琵琶の前奏がつきますが、こちらのソノシートには収録されていません。)


ここでの聴き所は、「鐘の声」という詞の後の、低音の続く部分です。お寺の鐘の「ゴーン…」という余韻を感じさせるメロディになっています。まさに「諸行無常の響き」を味わいながら聴いてみて欲しいと思います。

なお「奢れる人」ではなく「奢れる者」、「猛き者」ではなく「猛き人」となっているところに違和感を感じる人もいるかもしれませんが、もともとの平曲の譜本(「平家正節」)がそうなっているので、甲午氏が間違っているわけではありません。(そもそも「平家物語」自体、異本(バージョン違い)をたくさん持つ作品です。)

後半部分は、逆賊となり滅んでいった人々の名が「遠い外国の例」に続いて、対比的に「近く日本国内」に求められ列挙され、最後に平清盛の名が挙げられていきます。


物憂げで深みのあるメロディーをじっくりと味わうことができます。

全体的に現代の感覚でいうとビックリするくらいにゆっくりと詞が語られています。また、詞とメロディーの合わせ方も、現代の日本の音楽とは全然違います。現代で言えば「ララララ〜♪」とか歌いそうなところが、語尾をひたすら延ばす感じになっていたりしています。

この音源を聴いて「お経のようだ」という印象を持つ人もいるかもしれません。この「祇園精舎」は仏教教理である「諸行無常」を語る部分であり、また平曲自体がそもそも仏教音楽の影響を受けて成立したものなので、その印象は正しいと思われます。

ちなみに、この「祇園精舎」の録音については、「他の相伝者の方の演奏」や、「相伝を受けていない人の独自の演奏によるもの」や、「名古屋において伝承の復元を試みたもの」等々、様々なものが存在していて、それはそれで興味深いのですが、

僕自身は館山甲午氏のバージョンが一番好きです!

なお、館山甲午氏の「祇園精舎」の録音については、ここにアップしたソノシート以外には、コロンビアレコードから1965年に出されたLPレコード「平家琵琶」に収録のものがありますが、すでに廃盤となっています。(こちらのCD「琵琶~平家物語の世界~」で、短縮バージョンは聴く事ができます。)その他には、キングレコードから1971年に出されたLPレコード「平家琵琶の世界〜祇園精舎〜」(1998年にCD化)に収録のものがありますが、こちらも残念ながら廃盤となっていて現在入手困難です。

是非とも復刻して頂いて、多くの人が甲午氏の「祇園精舎」の語りを味わうことができるようになればよいと思います。
posted by manabiyah at 21:44| 平家琵琶 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする