「平家物語」各場面の原文朗読・現代語訳・解説の音声ファイルを公開しています。
全て無料でダウンロード可能です。
オススメの使い方は→こちらをご参照ください。

2013年12月03日

君は「平家琵琶」を聴いたことがあるか?

「徒然草」の第二百二十六段に、
「この行長入道、平家物語を作りて、生佛といひける盲目に教へて語らせけり。」
と書かれているように、

「『平家物語』は盲目の琵琶法師による語りであった」

ということを聞いたことのある人は多いでしょう。

でも、実際に盲目の琵琶法師が語る「平家物語」の語りを、
音声として聴いたことのある人はそれほど多くは無いのではないでしょうか。

実は、現代日本においても、
盲目の琵琶法師による「平家琵琶の伴奏を伴う平家物語の語り=平曲」は、
細々とではありますが、受け継がれています。

ちなみに、ここでいう「平曲」は、
あくまで「『平家琵琶』の伴奏による『平家物語』の語り」を指し、
薩摩琵琶や筑前琵琶などの奏者が平家物語の一部をとりあげているものではありません。

実際の演奏を聴けばわかると思いますが、「中世以来の伝統的な平家琵琶」と、
「薩摩琵琶・筑前琵琶などの近代琵琶」は、同じ「琵琶」と名がついていても、
ギターとバイオリンくらいに音色も奏法も違います!

例えばこちらは五絃の「筑前琵琶」。



↑これはこれで素晴らしいのですが、「平曲」ではありません!


盲目の琵琶法師による「平家琵琶の伴奏を伴う平家物語の語り」の伝統は、
現在名古屋において受け継がれています。

ここでは昭和の時代に活躍された三人の方の音源を紹介します。

LPレコード「平曲 平家琵琶/井野川検校・土井崎検校・三品検校」より。
フィリップスレコード(PH-7511〜2)。

IMG_8122.JPG

このジャケットの写真に載っているのが「平家琵琶」という楽器です。
(基本構造は雅楽で使う琵琶と同じ。)

こちらのLPレコードは1972年に発売されたものですが、現在は廃盤。
CD化もされていません。この記事でとりあげる場面は「那須与一」。
多くの人が中学校時代に教科書で学んだことのある部分だと思います。
波にゆれる扇を矢で射抜くあのシーンです。

mato1.JPG

mato2.JPG

ちなみにこの写真は「高松平家物語歴史館」で撮ったものです。
http://www.heike-rekishikan.jp/

「那須与一」の話の内容を忘れてしまった方は、
こちらから音声ファイルによる解説をどうぞ。
僕の番組で放送したもののアーカイブです。
http://manabiyah.seesaa.net/article/379515679.html
http://manabiyah.seesaa.net/article/379935197.html
http://manabiyah.seesaa.net/article/380800080.html

さてこの那須与一の琵琶語りは、全部通すと30分以上ありますので、
ファイルを分割してパートごとに聴きどころを解説していきます。

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1、まずは冒頭部分。

平家側の船から「射てみよ」とばかりに扇をかかげられて、
その任務を遂行できる者として那須与一が推薦されるところまで。

ここでは、何と言っても歌い出し部分、
三人が声を揃えて語るその音像の迫力に圧倒されます。
そこから次々と三人がパートを交代して語る。
これがまたそれぞれの語り方や声質の違いなどを、
味わうことができて何とも楽しいです。

このように複数の演奏者がパートを交代して語る形式は
「連れ平家」と言われます。

琵琶法師の語りは、必ずしも一人でされたものばかりでなく、
このような連吟の形式でも行われていたことが記録上でも確認できます。
これもまた伝統的な手法の一つです。



ちなみに平家琵琶の音色は「ジャラーン」とか、「ペン!」という感じの音で、
近代琵琶みたいに「ギニョン ギニョォーーン♪」した音ではありませんね。

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2、続いて、与一登場。

リングに向かうレスラーを、
アナウンサーが紹介するかのように、
服装の一つ一つがリズムカルに紹介されていきます。

この部分のメロディーは「拾(ひろい)」と呼ばれる、
合戦の場面などで用いられることの多いメロディーです。

ここでの聴きどころは、
あまりにも重大すぎる任務を辞退しようとした与一にむけて語る、
「今度鎌倉を〜べからず」という義経のセリフ部分。

よほど怒っているんだろうなー

ということがメロディーと語りからジワジワ伝わって来て実に面白いです。
このメロディーは「強声(こうのこえ)」と呼ばれます。




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3、味方が与一を見送るところに続く、
荒れる海、揺れる扇の描写です。

ここでの聴きどころは「頃は二月」から高い音域で歌い上げられる、
スケールの大きさを感じさせるゆったりとして美しいメロディー。
これは平曲の世界ではお馴染みの「三重」というフレーズです。
「頃は*月〜なれば」というような形で、
日付けを伴う自然描写の部分などでよく使われています。



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4、平家側、源氏側双方が見守る中で、
与一が扇の的に向かいます。

ここでの聴きどころは、与一が目を閉じて神に祈りを捧げる部分から、
与一が目を開く部分。与一の内心に高まる緊張感と、一方で気がつけば吹き弱る風。
言葉のテンポ感の変化を味わいながら聴くとよい感じかと思います。



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5、いよいよラストシーン。ついに矢が放たれます。

「弓は強し」の部分は勇ましくテンポの良いメロディー。

盛り上がって来ました!燃えます!!

いよいよ扇の的が射抜かれた後は一転して、
スローモーションになったかのようなゆったりとしたメロディーへ。
扇の対空時間! 続いて夕日の海に浮かぶ扇の美しさが、見事に表現されています。

最後の「陸には源氏」部分は、三人揃っての語りの迫力。
ラストに相応しく聴きどころ満載です。

中学校の先生方はこの部分だけでも、
授業中に生徒さんに聴かせてみたりすると良いのでは?




この那須与一を演奏しているお三方(井野川孝次氏、土井崎正富氏、三品正保氏、)は、
皆、盲人音楽家の組織における最高位である「検校」という位に就いておられました。

このLPには、この那須与一以外にも「鱸」「竹生島詣」の2曲が同じく
「連れ平家」の形で収録されています。

IMG_8047.JPG

このまま眠らせておくのは非常にもったいなく思います。
是非ともCD化して、もう一度世の人達が容易に入手できるようになればと思います。

残念ながらこのお三方は既に故人となられていますが、
名古屋にはこのお三方の系譜につらなる素晴らしい演奏者がいらっしゃいます。
それが今井勉さん。検校の位に就いておられます。

この今井勉検校の語る平曲が本当に素晴らしい!!

冒頭部分だけですが、youtubeに動画がアップされています。




この今井検校の語る平曲を収録した大充実のBOXセットがこちら。
「琵琶法師の世界 平家物語」です。
CD7枚+DVD1枚、さらにかなり濃い解説ブックレットが付いて来ます。

↓タイトルまたは、画像をクリックすると詳細ページに飛びます。

今井勉/琵琶法師の世界 平家物語(DVD付)


もちろん僕自身も買って繰り返し聴き込んでいますが、
聴くたびに毎回「うわーすごいわあ、これは」
と独り言をつぶやいてしまいます。

IMG_7359.JPG

この感動を是非皆さんと共有できたら嬉しいです。
1万円越えの超豪華ボックスセットですが、品質は非常に良いです。
(平成21年度(第64回)文化庁芸術祭 大賞 受賞とのこと。)

上記の三検校や、今井検校の動画を観て、
「お!これは!」と思えた方なら、

一生モノで楽しめる作品かと思います。



正直言って、伝統芸能のCDは資料性を重視しているせいか、
録音やマスタリングが実にいい加減なものも多いのですが、
こちらの今井勉検校のCDは録音も非常に良く、
琵琶のひとつひとつの軋みや、今井検校の細かな息づかいまでバッチリ聞こえます。
パフォーマンスが素晴らしいのは言うまでもなく。ホント、名盤です。
(僕は発売元のコジマ録音さんに直接電話して、思わず熱く語ってしまいました。)

以上、長々と語りましたが、機会があれば僕のラジオ番組の中でもまた、
「平曲」の世界についてあれこれ語りたいと思っています。


続編はこちら→君は「平家琵琶」を聴いたことがあるか?(その2)


追記。平家琵琶中興の祖・荻野検校の顕彰と平曲の保存・普及を図る会「萩野検校顕彰会」のサイトです。平曲の譜本や演奏会についての情報はこちらへ。↓
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posted by manabiyah at 12:58| 平家琵琶 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年08月14日

君は「平家琵琶」を聴いたことがあるか?(その2)

こちらは前回の記事「君は『平家琵琶』を聴いたことがあるか?」の続編です。

「平家琵琶」「平曲」といえば「盲目の琵琶法師が語るもの」というイメージを持たれている方が多いと思いますが、「平曲(平家琵琶の伴奏を伴う平家物語の語り)」は必ずしも盲人の方だけによって受け継がれて来たものではありません。

晴眼者(目の見える人)による「平家琵琶の伴奏を伴う平家物語の語り」の伝統は、津軽(弘前藩)からの系譜を中心に、着々と受け継がれて来ました。(譜本を見ながら語るのが伝統的な方法です。)そして今もなお、その伝統は正統な形で引き継がれています。(詳しく知りたくなった方は是非、前田流平家詞曲相伝者・鈴木まどかさんのwebサイトをご参照ください。→平家詞曲研究所

晴眼者による「平家琵琶(平曲)」について、着目すべき点は、「盲人の伝承では途絶えてしまった曲も現代に引き継がれている」という点だと思います。前回の記事で紹介した名古屋の検校の皆様の伝承されている平家琵琶の語りは全部で8曲。それに対して晴眼者による伝承では、なんと200句もの曲が伝承されています。200句というのは、簡単に言えば、「平家物語の全部分を琵琶で語れる」ということです。

例えば「平家物語」の冒頭「祇園精舎の鐘の声」という部分。「中学校で暗記させられたよー」という方も多いと思いますが、この超有名部分の平家琵琶の語りも、「盲人による平曲伝承」においては、残念ながら、明治の頃には途絶えてしまっていたとのことです。秘曲扱いであり、「伝承に厳しい条件が課されていたこと」や「演奏回数も制限がされていたこと」などが、伝承の途絶えてしまった理由のようです。

ところが、この盲人伝承では途絶えてしまった

秘曲「祇園精舎」も晴眼者による伝承においては、
しっかりと受け継がれているというわけです!


ここではその秘曲「祇園精舎」の音源を紹介します。

演奏されているのは「館山甲午(たてやま こうご)」氏。前田流平家詞曲相伝者で、1969年に無形文化財の認定を受けている方です。甲午氏はすでに亡くなられていますが、現在活動されている「平家琵琶の相伝者」は皆、この甲午氏の弟子や、孫弟子にあたられる方々ばかりです。

そんな館山甲午氏による貴重な録音、1963年角川書店から発売されたソノシート「平家琵琶 秘曲 祇園精舎/館山甲午」からのバージョンです。こちらは現在廃盤となっていて極めて入手困難なものです。

まずは、前半部分。皆さんお馴染みの「祇園精舎の鐘の声」という部分です。(本来は歌い出しの前に長い琵琶の前奏がつきますが、こちらのソノシートには収録されていません。)


ここでの聴き所は、「鐘の声」という詞の後の、低音の続く部分です。お寺の鐘の「ゴーン…」という余韻を感じさせるメロディになっています。まさに「諸行無常の響き」を味わいながら聴いてみて欲しいと思います。

なお「奢れる人」ではなく「奢れる者」、「猛き者」ではなく「猛き人」となっているところに違和感を感じる人もいるかもしれませんが、もともとの平曲の譜本(「平家正節」)がそうなっているので、甲午氏が間違っているわけではありません。(そもそも「平家物語」自体、異本(バージョン違い)をたくさん持つ作品です。)

後半部分は、逆賊となり滅んでいった人々の名が「遠い外国の例」に続いて、対比的に「近く日本国内」に求められ列挙され、最後に平清盛の名が挙げられていきます。


物憂げで深みのあるメロディーをじっくりと味わうことができます。

全体的に現代の感覚でいうとビックリするくらいにゆっくりと詞が語られています。また、詞とメロディーの合わせ方も、現代の日本の音楽とは全然違います。現代で言えば「ララララ〜♪」とか歌いそうなところが、語尾をひたすら延ばす感じになっていたりしています。

この音源を聴いて「お経のようだ」という印象を持つ人もいるかもしれません。この「祇園精舎」は仏教教理である「諸行無常」を語る部分であり、また平曲自体がそもそも仏教音楽の影響を受けて成立したものなので、その印象は正しいと思われます。

ちなみに、この「祇園精舎」の録音については、「他の相伝者の方の演奏」や、「相伝を受けていない人の独自の演奏によるもの」や、「名古屋において伝承の復元を試みたもの」等々、様々なものが存在していて、それはそれで興味深いのですが、

僕自身は館山甲午氏のバージョンが一番好きです!

なお、館山甲午氏の「祇園精舎」の録音については、ここにアップしたソノシート以外には、コロンビアレコードから1965年に出されたLPレコード「平家琵琶」に収録のものがありますが、すでに廃盤となっています。(こちらのCD「琵琶~平家物語の世界~」で、短縮バージョンは聴く事ができます。)その他には、キングレコードから1971年に出されたLPレコード「平家琵琶の世界〜祇園精舎〜」(1998年にCD化)に収録のものがありますが、こちらも残念ながら廃盤となっていて現在入手困難です。

是非とも復刻して頂いて、多くの人が甲午氏の「祇園精舎」の語りを味わうことができるようになればよいと思います。
posted by manabiyah at 21:44| 平家琵琶 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする